大判例

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大阪高等裁判所 平成6年(行コ)94号 判決

控訴人

柳川三男

阿部陽一

右両名訴訟代理人弁護士

中北龍太郎

被控訴人

金田博

辻利彦

華村公一

右三名訴訟代理人弁護士

滝井繁男

小林邦子

主文

一  原判決中、被控訴人辻利彦及び被控訴人華村公一に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人華村公一に対する本件訴えを却下する。

2  被控訴人辻利彦は、泉南市に対し、金二七万三七五〇円を支払え。

3  控訴人らの被控訴人辻利彦に対するその余の請求を棄却する。

二  控訴人らの被控訴人金田博に対する本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、控訴人らと被控訴人華村公一及び被控訴人金田博との間においては控訴費用全部を控訴人らの負担とし、控訴人らと被控訴人辻利彦との間においては、第一、二審を通じ、控訴人らに生じた費用を二分し、その一を被控訴人辻利彦の負担とし、その余の費用は各自の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、泉南市に対し、それぞれ金一二四万〇八六九円を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  原判決の引用

原判決三頁八行目文頭から一四頁四行目文末まで(第二 事案の概要)を引用する。

ただし、次のとおり補正する。

1  原判決四頁二行目から同三行目にかけての「亡平島仁三郎は泉南市長、」を削除する。

2  同行目の「同金田博」を「被控訴人金田博」と改める。

3  同五行目文頭から同七行目文末までを削除する。

4  七頁三行目の「一ないし二万円と」を「最高二万円を越えるなど」と改める。

5  九頁二行目文頭から同九行目文末までを次のとおり改める。

「(三) 被控訴人らの責任

(1) 本件報償費及び本件食糧費の支出当時、被控訴人辻利彦は市長公室長、被控訴人華村公一は空港対策室長であり、いずれも本件報償費及び本件食糧費の支出について専決権限を有していた。

右被控訴人らは、故意または重過失により、本件報償費及び本件食糧費という違法な支出を行った。

(2) 右支出当時、被控訴人金田博は収入役であり、被控訴人辻利彦及び被控訴人華村が右専決権限を行使するについて、右被控訴人らに対する指揮監督義務を故意または重過失(被控訴人金田については過失)により怠り、右違法な支出を招いた。

(3) したがって、被控訴人らには、泉南市に対し、本件報償費及び本件食糧費相当金額を賠償すべき責任がある。」

6  原判決添付別紙(二)の総員数欄のうち、番号16の「3名」を「4名」と、番号25の「9名」を「6名」と改める。

7  原判決添付別紙(三)の総員数欄のうち、番号一六の「三名」を「四名」と、番号二〇の「泉佐野市、田尻町」を「大阪府」と、同「八名」を「一二名」と、同「2市1町関西国際空港連絡会」を「臨空タウンについての協議」と、番号二五の「九名」を「六名」と改める。

二  控訴人らの当審附加主張

1  本件報償費支出について

(一) 泉南市が関係公務員と打合せ、協議等をする場合、関係公務員はその公務として対応するべきものである。

関係公務員が公務中に情報の提供や助言をしたとしても、それは公務の遂行にすぎない。すなわち、講演会等の講師らに対する謝礼金とは性格を異にしている。したがって、関係公務員に対して、謝礼相当分として本件報償費を支出しなければならない理由は存在しないから、本件報償費支出は違法である。

(二) 泉南市の場合、議会の要求により出頭した者等に対する実費弁償額は、昭和六二年三月三〇日以降五〇〇〇円であり、平成元年三月三一日に五五〇〇円に増額されているが、本件ビール券配布当時は五〇〇〇円であった。

本件の場合には、この実費が支払われるべき行為ですらないのに、右実費額よりも高額の支出がされている。したがって、右支出の違法性は明らかである。

仮に、本件の場合に何らかの謝礼をすることが許されるとしても、右五〇〇〇円を超過する部分は違法である。

2  本件食糧費の支出について

(一) 食糧費とは、行政事務、事業の執行上直接的に費消される経費である。

会議用等の茶菓、病院等の患者食糧、保育所等の賄料、非常炊出賄であって、金額も自ずから限定されたものである。宴会用に費消が許されるのは茶菓が限度である。したがって、本件食糧費は右限度を逸脱している。

(二) 食糧費と交際費との混同は許されるべきではない。

本件食糧費は、料理屋等における飲酒を含む飲食に費消されたものである。これらはたとえ許容限度内のものであっても、交際費から支出されるべきものである。食糧費として支出することは許されない。

(三) 泉南市が関係公務員と打合せ、協議等をする場合、関係公務員はその公務として対応するべきものである。したがって、泉南市が関係公務員に対して食事等を提供しなければならない理由は存在しないから、本件食糧費支出は違法である。

本件食糧費は、泉南市職員の食卓料に比較しても著しく高額である。すなわち、泉南市職員旅費条例では、一般職の場合で一夜につき一〇〇〇円である。本件では、本来泉南市が提供する必要のない食事等であるにもかかわらず、右金額を超過しているのであるから、右支出の違法性は明らかである。

仮に、本件の場合に何らかの食事を提供することが許されるとしても、右一〇〇〇円を超過する部分は違法である。

(四) 原判決添付別紙(三)番号三七の接遇の場所はバーである。しかも同店はトランプ手品を観賞することを売りものにしており、店の性格上会合とは無関係であって、会合に続く意思疎通の場ともいえない。右が遊興自体を目的としたものであったことは明らかである。これに関して一人平均九〇〇〇円、合計五万四九二〇円を食糧費として支出することは明らかに違法である。

三  被控訴人らの当審附加主張

1  本件報償費について

(一) 本件報償費は、空港対策室が、関係上級官庁の職員や空港専門家等に対して、南ルート架橋の実現のため相談をもちかけて助言を受けたり、有益な情報の提供を受けたりしたことに対する謝礼として支出されたものである。

このような情報・助言の提供やそのための懇談は、泉南市側からの積極的な働きかけにより、外部の関係公務員がこれに応じて初めて実現するものである。したがって、当該関係公務員の公務として当然に課せられた義務であるものとはいえない。

このため、右懇談が実現して情報・助言の提供を受けた場合には、これを講演会や研修会の講師を依頼した場合と同様に扱い、「役務の提供」を受けたものとして報償を払う対象としても違法とはいえない。

(二) 本件報償費が支出された当時の状況に鑑みれば、南ルート架橋の実現に関する情報・助言の提供は、泉南市にとって非常に貴重かつ有益なものであった。したがって、情報・助言の提供の必要性や有益性に相応するだけの報償が支払われることは当然である。

そして、本件報償費としてどの程度の支出をするかは、情報・助言の必要性・有益性に応じて定まるものであり、一律に決めることはできないから、当該支出を行う者の裁量に委ねられている。

そうすると、本件における情報・助言の必要性・有益性からすれば、本件報償費の支出は、社会通念上相当な範囲を逸脱するものではない。

なお、議会の要求により出頭したものに対する実費弁償額は比較の対象とはならない。

2  本件食糧費について

(一) 食糧費は、行政事務、事業の執行上、直接的に費消される経費である。すなわち、本件に即していえば、会合が行われた際の飲食費を想定しているものである。したがって、接待として飲食することそのものを主な目的として支出される交際費とは性格を異にする。そして、上級官庁との意見交換や情報収集にともなう飲食の場合は、単に儀礼や付き合いのために飲食しているのではなく、情報交換や協議の必要性があって会合をもっているのであるから、外部者と飲食したとの一事をもって、会合の性質が「交際」に転じるものではない。

ところで、本件食糧費は、関西国際空港の全体構想及び南ルート架橋の推進という行政事務の執行上に直接必要な協議会、懇談会等の会合及び右会合に引き続いて意思の疎通を図ることを目的として設営された会食として支出されたものである。

したがって、右支出は食糧費として支出されるべきものである。

なお、本件食糧費が交際費的な性格を有するとしても、地方自治方施行規則一五条二項別記に定める予算科目に従って交際費か食糧費かの分類をせざるをえないのであり、その場合食糧費に分類するのがより実態に即した処理ということになる。

(二) 本件食糧費は、南ルート架橋実現のために、内部職員のみでは得られない貴重な情報を外部の者から収集し、あるいは意見を交換するために開催された会合に引き続く会食において支出されたものである。

ところで、会食にどの程度の支出をするかは、会合の目的、必要性、相手方等により一律に決められるものではなく、当該支出を行う者の裁量に委ねられている。

そして、本件の各会食の内容は、右会合の目的等に照らし、社会通念上相当な儀礼の範囲内である。

なお、泉南市職員の食卓料は、支出する場面もその目的も異なるものであるから、比較の対象にはならない。

理由

第一  事実認定

証拠(甲二、甲五、甲二二ないし三八、被控訴人華村公一本人)に弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認めることができる。

一  本件食糧費及び本件報償費の支出がされた当時、既に泉州沖には関西国際空港(関空)の建設が進んでいた。そして、関空への連絡橋は、泉佐野市から空港北側部分に通じる連絡橋のみが計画されていた。

このため、泉佐野市の南に位置する泉南市では、関空の経済効果を泉南市及びその周辺の地域に波及させるためには、泉南市から関空への連絡橋(南ルート架橋)の建設が行われ、これによって泉南市を含んだ関空の全体構想が策定されることが必要であると考えていた。

二  そして、泉南市は、南ルート架橋や関空の全体構想の実現に対する取り組みなど関空建設にかかわる諸問題を処理する部署として、市長公室に空港対策室を設置した。

また、泉南市では、①関空計画に係る調査の実施及び資料収集に関すること、②関空計画に係る関係機関、関係部課等との連絡調整に関すること、及び③関空計画に係る関係諸団体との連絡調整に関すること、以上を市長公室長(部長職に相当する)の専決事項として定めた(平成元年三月三一日規程一号による改正前の泉南市事務専決規程五条二項、同規程別表第2の3)。そして、予算も、(款)総務費、(項)総務管理費、(目)空港対策費として計上している。

なお、本件報償費及び本件食糧費が支出された当時の、泉南市における予算執行上の、市長公室長(部長職に相当)及び空港対策室長(課長職に相当)の専決権限の有無及びその区分は次のとおりである(前記規程五条一項、同規程別表第1の2の16)。

1  食糧費の使用に関すること。

市長公室長 一件三万円未満

空港対策室長 なし。

なお、一件三万円以上一〇万円未満は助役の専決事項である。

2  報償費の使用に関すること。

市長公室長 「軽易なもの」

空港対策室長 なし。

なお、「重要なもの」は助役の専決事項である。

三  南ルート架橋の実現は、当時、一般には相当困難であると考えられていた。

そこで、空港対策室では、運輸省、大阪府などの関係上級官庁に対し、南ルート架橋に関する陳情を行ったり、協議を申入れたりした。

これとともに、空港対策室は、必要な情報の収集を行う一方で、泉南市と同様に南ルート架橋の実現を求めていた和歌山市や和歌山県那賀郡岩出町などの周辺市町村とともに関空連絡会を結成し、協議を行うなどしていた。

泉南市が、昭和六三年度の予算執行にあたり、(目)空港対策費、(節)需要費、(細節)食糧費として支出した項目は原判決添付別紙(二)のとおりである。

四  控訴人らが違法性を主張している本件報償費支出は原判決添付別紙(一)のとおりである。

その具体的な内容は次のとおりである。

1  番号一(前同別紙(一)の番号、以下同じ)

交付年月  昭和六三年四月ころ

交付先   運輸省(五名)

支出名目 南ルート架橋推進の相談・打合せに対する謝礼

支出金額  六万九〇〇〇円

交付目的物 ビール券(一枚六九〇円相当)×一〇〇枚

2  番号二

交付年月  昭和六三年五月ころ

交付先   空港専門家(六名)、自治省(四名)

支出名目  南ルート架橋構想、関連事業の円滑な推進及び財源対策についての相談・打合せに対する謝礼

支出金額  九万八一〇〇円

交付目的物 清酒ギフト券(一枚三二七〇円相当)×三〇枚

3  番号三

交付年月 昭和六三年一一月ころ

交付先   運輸省(三名)

支出名目  南ルート架橋推進の相談・打合せに対する謝礼

支出金額  六万二一〇〇円

交付目的物 ビール券二〇枚入り

(一万三八〇〇円相当)×三組

ビール券三〇枚入り

(二万〇七〇〇円相当)×一組

4  番号四

交付年月 昭和六三年一二月ころ

交付先   関係機関

支出名目  南ルート検討に伴う関係機関への謝礼

支出金額  四万一四〇〇円

交付目的物 ビール券二〇枚入り

(一万三八〇〇円相当)×三組

五  控訴人らが違法性を主張している本件食糧費は、原判決添付別紙(三)のとおりである。

そのさらに具体的な内容は次のとおりである。

1  番号三(前同別紙(三)の番号、以下同じ)

会食年月日 昭和六三年四月二七日

会食場所 観光旅館冨士屋(和歌山市加太所在)

相手方   和歌山市、岩出町

総員数   六名

支出名目  全体構想及び南ルート架橋推進の協議(接待用)

支出金額  八万〇三六〇円

(内訳)

料理  一万二〇〇〇円×六

酒   五〇〇円×六

ビール 六〇〇円×六

2  番号五

会食年月日 昭和六三年五月一二日

会食場所 岸和田市「(株)フルヤ」

相手方   不詳

総員数   三名

支出名目  全体構想及び南ルート架橋促進並びに臨空タウン活用の意見交換、協議における需用費(接待用)

支出金額  二万一一五〇円

(内訳)

料理  五〇〇〇円×三

ビール 五〇〇円×三

3  番号六

会食年月日 昭和六三年五月一三日

会食場所  大阪市北区ロイヤルホテル内 竹葉亭

相手方   不詳

総員数   五名

支出名目  全体構想及び南ルート架橋促進並びに臨空タウン活用についての意見聴取、協議における需用費(会議用)

支出金額  七万三八一〇円

(内訳)

料理  一万一〇〇〇円×五

酒   五〇〇円×六

ビール 五〇〇円×六

4  番号七

会食年月日 昭和六三年五月一四日

会食場所 安愚楽(和歌山市所在)

相手方   和歌山市、岩出町

総員数   五名

支出名目  全体構想及び南ルート架橋推進についての調査内容等の協議(接待用)

支出金額  六万二二六〇円

(内訳)

料理 五万二七〇〇円(五人分)

酒   五〇〇円×三

ビール 六〇〇円×四

5  番号八

会食年月日 昭和六三年五月二五日

会食場所  つる井(大阪市南区所在)

相手方 関西国際空港株式会社

総員数   六名

支出名目  全体構想の見通し及び取組についての意見交換、協議(接待用)

支出金額  一一万四八四〇円

(内訳)

料理  一万五〇〇〇円×六

酒   六〇〇円×四

ビール 六〇〇円×五

6  番号九

会食年月日 昭和六三年五月二六日

会食場所 芝苑(大阪市北区所在)

相手方   不詳

総員数   四名

支出名目  全体構想及び南ルート架橋促進並びに臨空タウンの活用(接待用)

支出金額  八万二八七二円

(内訳)

料理  一万二〇〇〇円×四

酒   六〇〇〇円(合計)

ビール 八〇〇円×三

7  番号一六

会食年月日 昭和六三年八月九日

会食場所 和(大阪市南区所在)

相手方   大阪府企業局

総員数   四名

支出名目  臨空タウン南地区の活性化協議(接待用)

支出金額  三万九七一〇円

8  番号二〇

会食年月日 昭和六三年九月一四日

会食場所  不詳

相手方   大阪府企業局

総員数   一二名

支出名目 臨空タウン・都市計画についての協議

支出金額  一万四四〇〇円

料理    一二〇〇円×一二

9  番号二二

会食年月日 昭和六三年九月一九日

会食場所 砂川荘(泉南市所在)

相手方   泉佐野市、田尻町

総員数   六名

支出名目  二市一町関西国際空港連絡会の懇談(接待用)

支出金額  一〇万一七九四円

(内訳)

料理  一万二〇〇〇円×六

酒   四〇〇円×二〇

ビール 五七〇円×二二

10  番号二五

会食年月日 昭和六三年一〇月一二日

会食場所 山王飯店(東京都千代田区所在)

相手方   国の関係機関

総員数   六名

支出名目  国への全体構想要望に伴う関係者との懇談(接待用)

支出金額  一六万一七六〇円

(内訳)

料理  一万八〇〇〇円×六

酒   八〇〇円×五

ビール 八〇〇円×七

老酒  二〇〇〇円×四

11  番号二六

会食年月日 昭和六三年一〇月一四日

会食場所 砂川荘(泉南市所在)

相手方   不詳

総員数   三名

支出名目  臨空タウンの土地利用についての意見聴取(接待用)

支出金額  三万九八五三円

(内訳)

料理  九〇〇〇円×三

酒   四〇〇円×一二

ビール 五七〇円×二

12  番号三七

会食年月日 昭和六三年一二月一〇日

会食場所  バー永尾(大阪市北区所在)

相手方   不詳

総員数   六名

支出名目  南ルート架橋・全体構想の協議(会議用)

支出金額  五万四九二〇円

(内訳)

飲食代(ボトルキープを含む)

13  番号四六

会食年月日 平成元年三月一日

会食場所  つる井(大阪市南区所在)

相手方   空港専門家

総員数   五名

支出名目  全体構想及び南ルート架橋の協議(会議用)

支出金額  八万六〇二〇円

(内訳)

料理  一万二〇〇〇円×五

酒   六〇〇円×七

ビール 六〇〇円×一〇

14  番号四八

会食年月日 平成元年三月一一日

会食場所 砂川荘(泉南布所在)

相手方   空港専門家

総員数   四名

支出名目  全体構想及び南ルート架橋促進についての協議(会議用)

支出金額  三万六五二〇円

(内訳)

料理  八〇〇〇円×四

酒   四〇〇円×三

第二  本件報償費の違法性の検討

一  報償費の意義

報償費とは、歳出予算の執行科目である節の区分のうち、地方自治法施行規則一五条二項別記に定める予算科目の(節)報償費から支出される経費である。これは、一般的に、役務の提供や施設の利用などによって受けた利益に対する謝礼又は報償的意味の強い経費である。報償費は、さらにその内容によって、報償金、賞賜金及び買上金に分類されている。このうち、報償金は、役務の提供に対する対価である。たとえば講演会、研修会、研究会等の講師、助言者に対する謝礼金のように役務の提供に対する反対給付として支出されるもののほか、市政功労者等に対する記念品代等の感謝の色彩が強いものも含まれる。賞賜金は、人命救助者に対する謝礼などがこれに該当する。買上金は、有害な動物等を買い上げることによって一定の目的を達成するための奨励的経費である。

報償費の支出は、役務の提供や施設の利用などによって受けた利益に対する反対給付であることが明確であれば、違法となるものではない(もっとも、本来別個の科目として予算計上すべきものを、報償費として支出するなどの流用が許されるかという問題は残る)。そして、反対給付的性格が明らかな場合はもとより、奨励的な色彩が強い場合にも、前記各例示のように、執行機関には、一定の限度でその裁量に基づいてこれを支出することが認められる。

しかし、奨励的意味合いが強くなる反面、反対給付的性格が薄れていくものについては、報償費支出の正当性の判断は曖昧で安易に流れ易いから、支出決定に際しては、十分な検討が必要であるし、市民感情等諸般の状況などにも慎重な配慮をしなければならない。

特に、支出の目的が、一般市民に対する反対給付又は奨励的給付というよりも、行政事務の遂行に際しての、関係公務員等に対する情報収集、折衝等の交際費的色彩の強いものの場合には、本来の報償費の性格から離れて、かなり異質性を帯びたものになってくる。したがって、その違法性の有無の判断に当っても、支出の反対給付性について十分な検討をすることはもちろん、さらに支出目的の正当性、支出態様の社会的相当性などをも総合して検討する必要がある。

二  本件報償費の違法性の検討

1  被控訴人らの主張

被控訴人らは、本件報償費の支出は違法でないとし、その理由として次のとおり主張する。

(一) 本件報償費は、空港対策室が、関係上級官庁の職員や空港専門家等に対して、南ルート架橋の実現のため相談をもちかけて助言を受けたり、有益な情報の提供を受けたことに対する謝礼として支出されたものである。

(二) 本件における右情報・助言の必要性・有益性からすれば、本件報償費の支出は、社会通念上相当な範囲を逸脱するものではない。

2  違法性の判断基準

たしかに、本件報償費が、被控訴人らが主張するような趣旨で、社会通念上相当な範囲で支出されていることが認められるならば、右支出は適法であって、その違法性を否定する余地がある。

しかし、右支出が適法として、その違法性を否定するには、相手方から提供を受けた情報・助言の必要性・有益性が認められるとともに、右情報・助言の提供者に対して反対給付をすべき場合(状況によっては、奨励的な意味合いを込めて給付をすべき場合)であると認められることが必要である。

さらに、右支出が、右情報・助言の内容との均衡上、社会通念上相当な範囲内にあることが認められる必要がある。

これらの点が認められるならば、本件報償費は違法であるとはいえない。

この点について、控訴人らは、関係公務員に対する支出は、反対給付的性格が全く認められないから、違法性は明らかであると主張する。

しかし、当該行政事務にかかわる官庁の関係公務員であっても、当該公務員の職務遂行自体としてではなく、一個人として専門的な立場から情報・助言を提供することがあり、この場合には、講演会等の講師・助言者と同視することができるから、右情報・助言の提供に対する反対給付的な趣旨で報償費を支出することは許されるべきである。

3  そこで、本件報償費について検討する。

(一) 本件報償費支出の交付先は、前示のとおりであり、運輸省職員、自治省職員、空港専門家、関係機関とされている。また、支出名目は南ルート架橋推進の相談、打合せ等に対する謝礼とされている。このことからすると、右支出が南ルート架橋推進という行政目的のために行われたことが一応認められないものではない。

しかし、この反面、右支出は、その交付先が明確でないうえ、支出名目との関連性も漠然としている。特に、関係機関、空港専門家が具体的に何を指すのかも明らかでない。また、交付先とされている者のうちの誰にどのような方法で交付したかも不明である。

(二) また、交付目的物は次のとおりである。

別紙(一)番号一では、五名の運輸省職員に対して一〇〇枚(一枚六九〇円相当)のビール券を交付している(一人当たり一万三八〇〇円)。

同番号二では、空港専門家(六名)及び自治省(四名)合計一〇名に対して三〇枚(一枚三二七〇円相当)の清酒ギフト券を交付している(一人当たり九八一〇円)。

同番号三では、三名の運輸省職員に対して一組二〇枚入り(一万三八〇〇円相当)のビール券三組と一組三〇枚入り(二万〇七〇〇円相当)のビールギフト券一組を交付している(一人当たり二万〇七〇〇円)。

同番号四では、関係機関(員数は不明)に一組二〇枚入りのビールギフト券三組を交付している。

(三) 以上によると、次のとおりである。

(1) 本件報償費支出が南ルート架橋推進という行政目的のために行われたことは一応認められる。

(2) しかし、本件報償費支出をして得られた情報・助言の必要性・有益性を明らかにする的確な証拠がない。また相手方がどのような立場で右情報・助言を提供したのかについてもこれを明らかにする的確な証拠がない。

(3) 右情報・助言の提供が、右提供者によってされた場所及び機会が不明である。このため、右提供者が、講演会、会合等の出席をしたことの有無などを判定する資料がない。

したがって、右情報・助言に対する報償費の支出が許容される場合であることが明らかにされていない。

(4) 右交付目的物は、原判決添付別紙(一)番号三の一人当たり最高で二万〇七〇〇円のビール券のものを含むほか、同番号一でも一人当たり一万三八〇〇円のビール券、同番号二でも一人当たり九八一〇円の清酒ギフト券(同番号四は相手方員数が明らかでないため不明であるが、同程度のものと推測される)である。

右は、一般的にみてもこれに相応する情報の提供、助言が認められない以上、社会通念上不相当に高額であるものといえる。

(四)  右に判示したところを総合すれば、本件報償費支出は、裁量権を逸脱した違法のものというべきである。

すなわち、本件報償費支出は、これが一定の行政目的のもとに行われたものと認めるとしても、情報・助言の内容や、同提供者の地位、氏名、その提供方法などが不明であるから、右認定の運輸省職員、自治省職員、空港専門家、関係機関などと抽象的に示される者からの、これまた抽象的な情報、助言と、これに対する報償としての交付目的物の価格との比較衡量をすると、前示2の支出の要件を充たしていない社会通念上不相当なものというべきである。

たしかに、当時の泉南市の行政にとって、南ルート架橋推進に関する情報・助言の提供は貴重なものであり、さらにこのような情報・助言が泉南市側からの積極的な働きかけに基づいてはじめて得られる類のものであることは事実である。また、泉南市が行なっていた南ルート推進行政は、同市民のそれなりの支持を背景にしていたと推認できないわけではない。

しかし、右行政目的の正当性が一応認められるとしても、右情報・助言の収集活動をするに際しても、法令及び予算の制約を受けることは当然であり、本件報償費支出をするには前記のとおりの一定の要件を充たす必要がある。

ところが、本件報償費支出に関して、相手方から提供を受けた情報・助言の必要性・有益性について、これを否定すべき証拠もないが、これを肯定すべき積極的な証拠も見当らない。

また、相手方が、単なる公務の範囲を越えて、一個人として、専門的立場から右情報・助言の提供をしたり、一定の会合場所に出席して右提供をするなど、報償費支出を是認するに足るべき事由を認める的確な証拠がない。

さらに、右事情のもとにおいては、本件報償費支出は、右の程度、内容が不明で抽象的な情報・助言であることの均衡上、明らかに社会通念上の相当な範囲を逸脱している。

そうである以上、本件報償費の支出は、これを適法として肯認するために必要な前記要件が充足されたものとはいえず、違法であるというほかない。

第三  本件食糧費の違法性の検討

一  食糧費の意義

食糧費は、歳出予算の執行科目である節の区分のうち、地方自治法施行規則一五条二項別記に定める予算科目の(節)需要費の(細節)食糧費から支出される経費である。これは、行政事務、事業の執行上直接的に費消される経費である。会議用、式日用又は接待用の茶菓・弁当、病院等の患者食糧、保育所等の賄料、非常炊出賄などがこれに含まれると解されている。

食糧費は、行政事務、事業の執行上直接的に費消される経費である。したがって、この点で、外部折衝経費である交際費とは異なる(交際費は、対外的に活動する地方公共団体の長その他の執行機関等が、当該団体を代表し又は当該団体の利益を図るために外部との公の交際を進めるうえで必要とされる経費である)。

食糧費は、右のように、行政事務等の執行上直接的に費消される経費であるから、食糧費支出の違法性を判断するには、当該行政事務等の存在が明確にされるとともに、右支出と右事務執行との直接的な関連性が認められる必要がある。

さらに、支出の対象とされる飲食内容が、これを必要とする行政事務の性質、内容、及び食糧費の右性質などを対比して、社会通念上相当な範囲のものであることが必要である。

二  本件食糧費支出の違法性の検討

1  被控訴人らは次のとおり主張する。

本件食糧費は、次の会合又は会食のために支出された。即ち、関空の全体構想及び南ルート架橋の推進という行政目的のもとに、右行政事務の執行として開催された協議会、懇談会及び意見交換会(会合)があり、これと同時又はこれに引き続いて会合を補充することなどを目的として設営された会食があった。そのために支出されたものである。

2  ところで、空港対策室は、前示のとおり関空計画に係る関係機関、関係部課等及び関係諸団体(関係機関等)との連絡調整に関する事務をその所管事務として含むものである(右事務は市長公室長の専決事項ともされている)。

そうすると、空港対策室が、関係機関等との会合をもつこと自体が右行政事務の執行であるともいえなくもない。また、右会合と同時又はこれに引き続いて行われる会食も、右行政事務の執行にともなう接遇として、会議用の茶菓、接待用の茶菓、弁当などは、右行政事務の執行との直接的な関連性が認められる。

すなわち、普通地方公共団体も、その長または執行機関が行政事務を執行する過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の茶菓、食事を提供して接遇を行うことは、当該普通公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして、許容される(最判平元・九・五判例時報一三三七号四三頁、最判平元一〇・三判例時報一三四一号七〇頁、最判昭六三・一一・二五判例タイムズ六八五号一四三頁参照)。

もっとも、食糧費は、行政事務の執行上直接的に費消されるものであるから、通常は接遇という場で支出することを目的としたものではない。

しかし、本件のように行政事務の執行上、外部者の参加を求めて会合をもつ必要性があり、これと同時又は引き続いて、会合自体では不十分なところを補ったり、あるいは外部者に対し、会合への出席及び情報・助言の提供に対する儀礼の趣旨の接遇を兼ねて食糧費というに相応しい節度のある会食をすることは、なお食糧費の対象の範囲内であるということができる。

もっとも食糧費の運用が安易に流れ、際限なくその支出の対象が拡大することは厳に戒めなければならない。また、右のとおり、行政事務の執行にともなう接遇が許されるとしても、そもそも行政事務の執行が常に会食を伴なう会合の形式で行わねばならないものでもない。むしろ、このような行政手法は、ひろく住民の不信を招くおそれが強いものであって、厳にその濫用や安易な運用がないよう慎重な配慮が必要である。

3  地方公共団体は、このように行政事務の執行にともない接遇を兼ねて会食をし食糧費を支出することができる。

しかし、この接遇は、対外的折衝を目的とした交際費によるものと異なり、本来会議用の茶菓、接待用の茶菓、弁当等を対象とした食糧費によるものである。しかも、これは公的存在である普通地方公共団体により行われるものであるから、それが食糧費としての節度を失い、または社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、右接遇は当該普通地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を食糧費により支出することは許されない(前掲最判参照)。

4  そこで、右に説示したところに基づいて、本件食糧費について検討する。

(一) 前記第一の認定事実及び弁論の全趣旨を総合すると、本件食糧費は、関空の全体構想及び南ルート架橋の推進という行政目的のもとに、右行政事務の執行として開催された会合に際して、右会合と同時又はこれに引き続いて会合を補充することなどを目的として設営された会食のために支出されたものと一応認めることができる。

しかし、本件食糧費にかかる会食の相手方は、前示認定のとおりであり、中に不詳のものがあったり、相手方として国の関係機関、大阪府、和歌山市等の周辺地方公共団体、空港専門家であると抽象的に示しているにすぎない。そのうえ、市側の出席者もその具体的な氏名、地位などは明らかにされていない。また、支出にかかる会合の趣旨も、前示のとおりであり、国の関係機関については全体構想要望、大阪府については臨空タウン活性化協議、周辺地方公共団体については全体構想及び南ルート架橋推進協議・二市一町関空連絡会、空港専門家については全体構想及び南ルート架橋促進についての意見聴取などであると一般的抽象的に記されているに過ぎない。

しかも、この中には、昭和六三年五月一四日の飲食費を同年一〇月一九日に支出命令書の起案がされ、同年一一月一〇日に口座振替されているものや(番号七、甲二九)、同年五月二五日の飲食費が同年一〇月一九日に請求され、同月二四日に支出命令の起案がされ、同年一一月一〇日に口座振替されたものもある(番号八、甲三〇)。また、前示のとおり相手方参加者が不詳とされているものもあり、いずれも被控訴人主張の会食があったことすら明確でないものさえある。もっとも控訴人らは会議会食の存在自体を争わないので、冒頭認定のとおり、その存在を前提として検討する。

(二) 会合及び会食場所は、別紙(三)番号三七のバーを除き、料亭、料理屋、旅館である(ただし、同番号二〇の会食場所は不詳であるが、飲食単価は一二〇〇円に過ぎない)。

もっとも、会食に芸妓、ホステス、コンパニオンなどが同席したものを認めるに足りる証拠はないし、二次会等の費用は含まれていない。

(三) 会食における料理は、別紙(三)番号八(一万五〇〇〇円)、同番号二五(一万八〇〇〇円)を除き、一人当たり一万二〇〇〇円以内の金額である。

また、飲み物は、同番号二二が六名で酒二〇本、ビール二二本と多いほか、二、三の会食で参集人員に比較してかなり多いのも認められる。

一人当たりの会食費用は少額のもので一二〇〇円(同番号二〇)から多額のもので二万〇七一八円(同番号九)である。

(四) 食糧費による会食の場合についても、どのような飲食を供するかは、相手方の身分、地位と会議など職務の内容等に応じて地方公共団体の長又は職員の裁量によるほかない。しかし、それが食糧費の前示性質に照らし、その節度と社会的儀礼の範囲を逸脱している場合には裁量権の濫用としてこれによる食糧費の支出は違法になるというべきである。

ところで、本件のように相手方の地位、氏名などが不明で、会議内容なども抽象的で具体的な事項が明らかにされないものについては、相手方は通常人で一般職員であるとみるほかない。この場合には、弁論の全趣旨により認められる指定職国家公務員の食卓料、泉南市職員の一般職の食卓料など諸般の事情に照らし、いくら多くても一人あたり六〇〇〇円までであって、これを越えるものについては、泉南市職員の裁量権の濫用であり、社会通念上相当な儀礼の範囲を逸脱した違法な食糧費の支出であるというべきである。

そして、この場合、職員の側において相手方の地位、職務内容に照らし右限度を越える飲食を要する特段の事情を主張、立証しない限り、違法な食糧費の支出としてその賠償責任を免れない。

なお、食糧費の前示本来の性質に照らし、右飲食が単に芸妓花代を含まないことの一事をもってすべて適法ということはできない。

もっとも、右一人当たり六〇〇〇円以内の食糧費はその支出が必要な経費であったというほかないから、有責の職員は損益相殺により一人当り六〇〇〇円を越える額について賠償責任を負うべきものである。

以上は、別紙(三)番号三七のバーを除く会食についていえることである。

5  次に、別紙(三)番号三七のバーについては以下のとおり判断する。

証拠(甲四九)によれば、同番号三七のバーは、客に酒を飲ませながらトランプ遊び、手品を見せ、それを売り物にする店であること、このため、客同士で仕事の話をするなどということはとてもできない雰囲気であることが認められる。

そうすると、右バーにおける一人当たりの支出金額が約九〇〇〇円であること、接遇場所が右バー一か所であることを考慮しても、このような場所は、会合の場所としてはもちろんのこと、たとえ会合の後の接遇の場所としても、およそこれらに相応しい場所とはいえない。しかも、接遇の相手方も不詳である。

すなわち、本件においてこのような場所における不詳者を相手とする接遇について、行政目的との関連性を認めることができないことは明らかである。右接遇は、もっぱら遊興目的のもとでされたものというほかない。

以上によれば、同番号三七のバーに関する本件食糧費支出は、食糧費としての節度はもとより、社会通念上相当な儀礼の範囲を逸脱していると認められる。したがって、右支出は違法である。

第四  被控訴人らの責任

一  前示のところによれば、次のとおりである。

1  本件報償費の支出はすべて違法である。

2  本件食糧費のうち、別紙(三)番号三七の支出は違法である。

3  右以外の本件食糧費の支出は、そのうち、一人当り六〇〇〇円以内の別紙(三)番号二〇を除きいずれも違法である。

二  専決権限及び行為者

1  前示第一の二のとおり、空港対策室長であった被控訴人華村は、本件報償費及び本件食糧費の支出命令につき専決権限を有しない。したがって、被控訴人華村は財務関係上の職員でなく、地方自治法二四二条の二第一項四号所定の当該職員に当らない。とすれば、同被控訴人は本件訴えの被告適格を有しないから、同人に対する本件訴えは不適法である。

2  前示第一の二のとおり、市長公室長であった被控訴人辻は、本件報償費のうち「軽易なもの」の支出命令につき専決権限を有する。なお、助役にも本件報償費のうち「重要なもの」の支出命令につき専決権限がある。

証拠(甲二二ないし二五)によると、本件報償費の各支出命令は、原判決添付別紙(一)番号四を除き、被控訴人辻及び助役双方の決裁にかかる文書に基づいていることが認められる。したがって、同番号四の専決行為をしたものは被控訴人辻であるというべきである。

一方、同番号一ないし三については、右両者のうち現実に各支出命令を専決処理した者がいずれであるのかを直接明らかにする証拠がない。しかし、このように専決委任を受けた複数の補助職員が当該支出につき決裁をしているときは、前示の専決事項の区分により専決委任を受けた職員が専決行為者であると認定するのが相当である。けだし、専決事項として定められた金額の範囲外の事項は専決処理することが予定されていないからである。

ところで、報償費の支出の専決区分は、前示のとおり被控訴人辻が「軽易なもの」、助役が「重要なもの」であり、金額を明示した区分がされていないため、その専決区分が不明瞭である。しかし、少なくとも原判決添付別紙(一)の番号一ないし三のように一件一〇万円に満たないものは、同番号四同様に「軽易なもの」として被控訴人辻に専決権限があるものとみるべきである(ちなみに、本件当時以降、前示専決規程の該当条項は改正され、市長公室長の専決権限が一件五万円以上三〇万円未満と、助役の右権限が一件三〇万円以上一〇〇万円未満とされている)。

したがって、本件において別紙(一)の番号一ないし四の支出命令を専決したのは被控訴人辻であると認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  次に、本件食糧費についても事情は同じであって、ほとんどは助役までの決裁を経ているが、中には市長の決裁を経ているものもある(甲二六ないし三八)。そして、本件食糧費についても、その専決区分にしたがって、次のとおりであると認めるのが相当である。

(一) 助役の専決処理

原判決添付別紙(三)番号三(八万〇三六〇円)、同六(七万三八一〇円)、同七(六万二二六〇円)、同九(八万二八七二円)、同一六(三万九七一〇円)、同二六(三万九八五三円)、同三七(五万四九二〇円)、同四六(八万六〇二〇円)、同四八(三万六五二〇円)。

(二) 被控訴人辻利彦(市長公室長)の専決処理

同番号五(二万一一五〇円)、同二〇(一万四四〇〇円)。

(三) 市長の処理

同番号八(一一万四八四〇円)、同二二(一〇万一七九四円)、同二五(一六万一七六〇円)。

* なお、同番号二〇(一万四四〇〇円、一二名参加)は前示のとおり違法とはいえない。

三  被控訴人らの責任

1  被控訴人辻の責任

被控訴人辻は、原判決添付別紙(一)番号一ないし四の報償費、同別紙(三)番号五の食糧費の支出命令の専決行為者である。

前示認定の事実に照らすと、被控訴人辻は、右支出命令をするに際して、その違法性を認識していたか、少なくとも僅かな注意をすればその違法性を認識しえたにもかかわらず、これを怠った重過失があるものと認めることができる。

なお、被控訴人辻は、別紙(三)番号五、同二〇以外の食糧費に関する専決行為者であるとはいえないから、これについての責任を負わない。

2  被控訴人金田の責任

被控訴人金田は、前示一の支出がされた当時収入役をしていた。

ところで、収入役が支出命令に基づいて支出をする際の審査は、①歳出の会計年度所属区分・予算科目の確認、②予算額等との整合性、③支払方法の適法性などの点に限定して行われる。

そして、収入役は、支出負担行為については、これに明らかな無効事由が存在するなどといった特段の事由が認められない限り、この点の検討を義務づけられるものではない。

そこで、本件についてみると、本件で争点とされた前示一の支出の違法性に関する判断は、個別的な状況のもとでの支出負担行為にかかわることである。

そうすると、支出負担行為に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、収入役が、被控訴人辻及び被控訴人華村並びに助役が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意または過失により怠ったということはできない。

第五  まとめ

以上判示したところによると、次のとおりである。

一  控訴人らの被控訴人辻に対する本訴請求は、原判決添付別紙(一)番号一ないし四の報酬費合計金二七万〇六〇〇円、及び同別紙(三)番号五の二万一一五〇円のうち一万八〇〇〇円(一人当り六〇〇〇円の三人分)を越える三一五〇円の合計二七万三七五〇円(計算式は次のとおり)の支払を求める限度で理由がある。

270,600+(21,150−18,000)=273,750

二  控訴人らの被控訴人華村に対する本件訴えは不適法であるから却下すべきである。

三  控訴人らの被控訴人金田に対する本訴請求は理由がない。

第六  結論

よって、原判決中、被控訴人辻利彦及び被控訴人華村公一に関する部分を主文一項のとおり変更することとし、控訴人らの被控訴人金田博に対する本件控訴を棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官吉川義春 裁判官小田耕治 裁判官杉江佳治)

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